飛び出しばあ様についての一考察
道の駅の片隅
作った人の写真入の
農作物やら
名前入りの手作りパンが並ぶ
生木の台を 見下ろす壁に
パッチワークやら
手縫いの手提げやらに囲まれて
飛び出し婆さま
年寄りの不意の飛び出しを
想定してゆっくり走りなさいと
ドライバーに注意を促すために
田舎の県道や町道や
農道の傍で杖をついて
立ってる 立て看板の
飛び出し婆さま
ふつう 婆さまはどれも同じ顔
同じ背格好 それは
自治体の生化学工場で作られるクローンだから
轢かれても壊されても すぐ代わりが利くように
常に 同じ婆さまスペアが
何百体と用意してある
だけど ここの道の駅の
飛び出し婆さまは ちょっと違う
やたらにべっぴんだ
(オードリー・ヘップパーンのようだ)
気品が違う
(マレーネ・ディートリッヒのようだ)
なぜなら彼女は 遺伝子組み換え婆さま
大量生産のクローン婆さまとはわけが違う
道の駅の門は鉄製 周囲は有刺鉄線
ドアの鍵は二重式 セコムと契約
飛び出しばあ様の足元には
ネズミ捕りが置いてある
すべては 飛び出しばあ様を盗もうとやってくる
二次コンじい様撃退用だ
La musica de el viento
風が草木を奏でている
さわさわという葉ずれの音とは
明らかに違う旋律
あなたは言うだろう
葉ずれの音
それしか聞こえないと
風の楽曲は人の心に届くまで
時間がかかる
時間がかかる
遠い星から来る光のように
あなたは知っているだろうか
ある時突然 心に浮かぶ曲
どこかで聴いたことがある
美しい音の連なり
だけど どこでだか思い出せない
ある時突然 心に浮かぶ曲
どこかで聴いたことがある
美しい音の連なり
だけど どこでだか思い出せない
それが あの日
風の奏でていた旋律
風の奏でていた旋律
もういないあの人と
木漏れ日を浴びながら
愛を語っていたとき
森が奏でていた 風の楽曲
小さい頃 お母さんと
手をつないで歩いていたとき
木立が奏でていた 美しい曲
それが ある日
何年もの歳月を経て
心に届くのだ
もう風は吹かない
私の上を走り回っていた
あの小さい生き物たちは
どこへ巣立っていったのだろう
また 帰ってくるだろうか
私の上を走り回っていた
あの小さい生き物たちは
どこへ巣立っていったのだろう
また 帰ってくるだろうか
およそ 宇宙全体で
もっとも美しい音楽
それを
ゆっくりと
宇宙空間を転がる
青い星が聴く
膨張した太陽にのまれ
その一部になる直前に
自らが愛でた生命たちのことを
思い出しながら
対処法
かぼちゃの煮つけを作っていたら
いきなり 馬車になった
そんな経験 誰にもありますよね
そんな時 慌てないための知恵を
専門家の 灰神楽姫子先生に伺います
先生 どうすればいいんでしょうか
はい その時は
そのまま にばしゃにしてください