らせん状の回転木馬 | 水面からめくりとった水びたしの月

らせん状の回転木馬

世界中の花が
喋れるようになったのに
月下美人だけは黙ったまま
名前を聞かれて答えるのが
照れくさいのよと
石楠花
つかの間の蒼い雑踏の中
昼間はレンガ色にあかるかった
雑居ビルの陰にはいると
七歳のあの日 角を曲がって
いってしまったシャボン玉に
再会する
どこへ行ってたの と私
あなたこそ とシャボン玉

子供たちが らせん状の回転木馬で
天までのぼっていく
下から母親たちが呼びかける
暗くならないうちに降りておいで
ミルキー・ウエイのあたりから
返事がこだましてくる
どうして? ここはいつも夜だよ

端の欄干から見下ろす川
ポケットの底が破れて
つめこんでおいた夜空から 
星がほろほろ
川面に転がり落ちていく

高い空の月が 私に言う
水の中の私を助けて
水に映る月が私に言う
空で凍える私を助けて

川面に映る顔はのっぺらぼう
嬉しいの? 悲しいの?
あの人に会いたいの? 会いたくないの?
問いつめられたらいつも
子供の顔は のッペらぼう
今の気持ちにぴったりの
表情が流れてきて
輪郭におさまるまでは
私はここを動けない

私はシャボン玉に言う
みんな人生の取り扱い説明書をもってて
私だけが持ってないみたいなの
シャボン玉は
答える代わりにぱちんと消えた

影の束を抱えた駅員が
街中によびかける
最終列車に影を忘れた人はいませんかぁ
早く来ないと夜にとけてしまいますよ