人質カノン | 水面からめくりとった水びたしの月

人質カノン

ゼブラゾーンを歩いていれば
車が来ても止まってくれる

メルセデスでもポルシェでも


人質は毎日替わる
人質が人質であることに疲れて
死んでしまってはひとたまりもない


今日の人質さんは
人身御供として滝つぼに投げ入れられて
三回転半ひねりで着水し
満点を出したナジャさんです


なぜ 経帷子を着ているのですか?


幸せを試着したけど
似合わなかったのです


ゼブラゾーンを歩いていれば
何があっても大丈夫
嵐が来ても

そこだけ晴天


今日の人質さんは

村長さんです

村長さん 長い小道を

てくてく歩いてきてくださってありがとう


3時17分で止まった時計を見るたびに

私はいつも思うのですよ

この時計の右半分は止まっているけれども

左半分は動くのではないかとね


ゼブラゾーンを歩いていれば
何があっても大丈夫
13日の金曜日でも
ゼブラゾーンだけ
日曜の午後


今日の人質さんは

ジョン・レノンさんです

またこの世界に帰ってきますか?


話し言葉と書物と音符の中に

こんなにたくさん 僕がいるのにかい?

人間の姿をしているのは

とても肩が凝るのだよ

だけど もう死んでいる僕が

人質になってもいいの?


大丈夫ですよ

この詩の十五行目の半分くらいから

タイトルは人質カノンではなく

人質レノンになっていますから


ゼブラゾーンを歩いていれば
核戦争でも大丈夫

人類でただ一人の生き残り

そこから出さえしなければ

放射能も避けて通る


今日の人質は

不信心な猫さんです


逃がしてよ


だめです


なんで?


私は犯人たちに

時給三メモリーで見張りに雇われているのです

時給三メモリーって?

悲しい思い出十個を

手形割引して

楽しい思い出三個に

変えてくれるのです

何しろ悲しい思い出なら

蔵に納まりきれないほどありますから

その蔵は石積みなの

レンガなの それとも木造?

今のところ

言葉でできています

言葉でできた蔵

それはすばらしい

私も人質の見張りになりたい

難しいですね

なにしろ あなたは今のところ

人質ですから


ゼブラゾーンを歩いていれば

何があっても大丈夫

だけど誰かが黒板を
爪でひっかいたら
人類滅亡