グッドスティングレイが死んだ | 水面からめくりとった水びたしの月

グッドスティングレイが死んだ

グッドスティングレイが死んだとき

私は 自分が死んだときよりも泣いた


私の左目が見る世界は昼

私の右目が見る世界は夜


境目で月光による

グッドスティングレイの火葬が行われている

グッドスティングレイは火の中で踊る

紺青の山稜のシルエットの向こう側

水色の夜空に翻る 帆布のように


私は右目を固く閉じて呼びかけ

左目を閉じて

グッドスティングレイの

死後硬直を遅らせようとする


グッドスティングレイは不思議そうに

冷たくなっていくかかとを見つめている


グッドスティングレイが死んだとき

私は 自分が死んだときよりも

ため息をついた


私の左目が見る世界は春

私の右目が見る世界は冬


境目で全身に風花をまとった

グッドスティングレイが しっぽで大地を叩いている

107回目の地響きとともに

トビウオが暴発したと伝令が届く


私は右目を固く閉じて

グッドスティグレイの凍結を防ごうとする

雪に覆われた連山の

氷結した岩に足を囚われ鳩がもがく


グッドスティングレイが死んだとき

私は 自分が死んだときよりも

深く眠った


私の右目が見る世界は過去

私の左目が見る世界は未来

境目で カテーテルが小惑星をつなぎとめる


私は両目を固く閉じて

シナプスの飛び交う音に耳を傾ける


羊歯と地衣に覆われた

段々畑が空まで続いていた

廃墟の折れた鉄骨は

空一面に垂れこめる桜色の雲を支えていた


海と空と大地しかなかった頃に

よく遊んだね グッドスティングレイ

今はまだ 微生物しかいないよ

今はもう  微生物しかいないよ 


グッドスティングレイの影が

山を一色暗くしてとおりすぎる

影の中は午前三時

影の周囲は正午


今はもういない

グッドスティングレイ


影だけがどこをどう遠回りしたのか

遅れてきて 山を越えてゆく