帰れない小船と金色のじゅうたん | 水面からめくりとった水びたしの月

帰れない小船と金色のじゅうたん

渋滞の国道で車窓から海を見ていた

また来るための会社から

また出てくるための家に帰る道で

人生から少しずつ遊離した人生の

空欄をカーステレオのCDの

直訳すれば土鍋になるアメリカのバンドが埋める

心を包んでどこかへ持っていこうとするので

それは明日も使うからとキーチェーンをあわててたぐり寄せる

頭をさげ キーを打ち レイアウトを考え

商品を並べるのは でく人形には無理だから


沖に波が作る銀色のタペストリーに

織り込まれて帰れない小船が一艘

不思議と気の毒だとは思わなかった

あの船にはきっと

クリムゾン・グローリーという名前の薔薇の苗木と

箱一杯の星くずがおがくずに包まれて

積まれているに違いない


のろのろと

そろそろ点きはじめたテールランプを見ながら

視界をさえぎる建築物を過ぎたら

海に金色のじゅうたんが敷かれていた

岸から始まって

今から遠い土地へ旅立つ熟した太陽へ

まっすぐに続いていた

名前も知らない木が並ぶ異国の並木道や

潮騒や 風の音や 極彩色の衣裳

人々が魂の名前で呼び合う国

あるいは雪をいただき 国境を超えてそびえる連山

星ヤケしそうな満点の星 三百六十度の地平線

みんな見せてあげるよ

じゅうたんをわたっておいでと声がする


明日ね

と私は答える


昨日一昨日一年前と同じに

明日あさって一年後と同じに