ねこもりうた
見て
きれいな満月
あ 満月は無理
なんで?
記憶の中の月が満タンなの
『メモリがいっぱいで記憶できません』って
警告表示が出てる
三日月を少しつめたら?
よいしょ…
頭を両手で抱えて振る
あ 大丈夫みたい どれどれ
窓辺から月を見上げた
本当に 空から転がり落ちそうなほど
見事な丸さの満月
『記憶の中に同じものがあります
上書き保存しますか』って
海馬に電光表示が出てる
僕が体温をなくした夜の月だね
まぶしくて慌てて閉じた瞼の中に
拡散した真っ赤な太陽と
ぽきんと折れそうな三日月
折り曲げた半分が
抜こう側にありそうな半月
完璧な円形の月
悲しいときに空を見上げる
癖がある人の記憶の中には
かならず この中のどれかがある
せっかく帰ってきたのにどこ行くのって
追いかけたら
一緒に家出した兄弟たちのところへ
連れてってくれたね
空き家の軒下だった
また一緒に暮らしたかったからね
今 どこにいるの?
出て行くとき追いかけていい?
コタツの中だよ
あの家の あの日のコタツの中
だって それ以来
僕を見ていないだろう
コタツの中か
それなら悲しくないね
また来る?
さあね
猫は気まぐれだから