The sun will not appear ⅶ | 水面からめくりとった水びたしの月

The sun will not appear ⅶ

太陽が昇らないので

太陽に照らされて

初めて生まれる

全ての色が

過去のものになった


誰かが 「かわせみ」と言うと

人々の心に

初夏の陽を浴びてまぶしく輝く

コバルトブルーへの渇望が

生まれた


誰かが 「一面の菜の花畑」と言うと

人々の心に その壮大なパノラマへの 

胸の痛くなるほど

激しい憧れが 発生した


懐かしい色を思い出させる

発言を慎むよう

政府は国民に呼びかけ

やがて

不文律のようなものができた


すると 海賊気分の愉快犯が

あるいは 心に芽生えたものへの

狂おしい嘆きを 自分ひとりで

抱えこむのをいやがる

ロマンテチストや夢追い人が

 

花の名や 鳥の名

蝶の名 色鮮やかな熱帯の

魚や動物の名を

次々に声高に叫ぶ


無政府状態


もはや 誰も彼もが

かつての

美しい光景を叫ぶ


けれども

あれだけは別だった


夕焼け


砂漠の夕焼け

山を染める夕焼け

海を輝かせる

夕焼け


この言葉に

耐えられる者はいなかった


「夕焼け」だけは

誰もが 避けて通った


「夕焼け」


その言葉は自爆テロに匹敵する


そして まだ


太陽は昇らない