The sun wil not appear ⅩⅠ | 水面からめくりとった水びたしの月

The sun wil not appear ⅩⅠ

水平線に赤みがさして

太陽が昇り始めた

海岸 堤防 港 岸壁

あらゆる海べりに

人だかりができた


誰もがかたずを飲んで見守った

だれもが無言だった

誰もが物音一つ立てないよう

最新の注意をはらっていた


みんなの心に

同じような 懸念があった


これは夢かもしれない

自分の夢でなくても

誰かが見ている夢かもしれない


太陽さえ昇ってくれれば

夢でも現実でもいい

誰の夢でもいい

醒めさえしなければ


足音さえ忍ばせてそっと移動し

知り合い同士でもいっさい口をきかず

みんな 無音無言で

日の出を見守る

心の中で 昇れ 昇れと

かけ声をかけながら


太陽はぐんぐん昇り

どこまでもまっすぐに昇り

空を横切る軌道のことなど忘れたように

どこまでも上へ昇り

やがて 空の彼方へ消えてしまった


落胆のため息を合図に

泣き声 叫び声 怒号

やつあたりのけんか

やけっぱちの大騒ぎ


子どもたちが

金切り声をあげて走り回る

誰かが金だらいを棒で叩く

チンドン屋がとんちゃか ぷーちゃか

誰かがモビルスーツを使って

特大マージャン牌を混ぜる


楽隊が来る

ヘビメタのバンドが来る

蝉の大群が来る 


それでも

誰も夢から醒める気配はなく


そしてまだ

太陽は昇らない