飛び出しばあ様についての一考察 | 水面からめくりとった水びたしの月

飛び出しばあ様についての一考察

道の駅の片隅

作った人の写真入の

農作物やら

名前入りの手作りパンが並ぶ

生木の台を 見下ろす壁に 

パッチワークやら

手縫いの手提げやらに囲まれて

飛び出し婆さま


年寄りの不意の飛び出しを

想定してゆっくり走りなさいと

ドライバーに注意を促すために

田舎の県道や町道や

農道の傍で杖をついて

立ってる 立て看板の

飛び出し婆さま


ふつう 婆さまはどれも同じ顔

同じ背格好 それは

自治体の生化学工場で作られるクローンだから

轢かれても壊されても すぐ代わりが利くように

常に 同じ婆さまスペアが

何百体と用意してある


だけど ここの道の駅の

飛び出し婆さまは ちょっと違う

やたらにべっぴんだ

(オードリー・ヘップパーンのようだ)

気品が違う

(マレーネ・ディートリッヒのようだ)

なぜなら彼女は 遺伝子組み換え婆さま

大量生産のクローン婆さまとはわけが違う


道の駅の門は鉄製 周囲は有刺鉄線

ドアの鍵は二重式 セコムと契約

飛び出しばあ様の足元には

ネズミ捕りが置いてある

すべては 飛び出しばあ様を盗もうとやってくる

二次コンじい様撃退用だ