水面からめくりとった水びたしの月 -6ページ目

流れ星

星がもし

高く高く


天まで育った

植物の 花ならば

星畑に


迷い込んだら


じっと


動かずにいましょう


その


見えない茎を

揺らさずにいましょう


誰かが


願いごとを


胸に秘めて


夜空を


見上げるまで

空の上を旅したら

空の上を旅したら

窓から雲を見下ろしてごらん

何かがきらきら光っていたら

それは 地上に届かずに

雲にひっかかった流れ星

その全部に願いごとをしたら

君はきっとなれる

世界一の欲張りに

空の上を旅したら

窓の外を見ながら

考えてごらん

空全体を空輸する方法を

きっと 頭が痛くなるから

美術館では一人になってはいけない

古いフレスコ画の中で
描かれている人物たちが
体をこちら向きにして

真正面を指さしたり

斜め上を指さしたり

斜め下を指さしたり

していたら 気をつけろ


絵の表面の
ヒビをつたって
あみだくじをしてるんだ


そのうち

アタリをひいた誰かが

自由の身になって


君の後ろに

自分探しの旅にでてみた

みつけたので宅急便で家に送った

帰ったとき私が家に入れてもらえるかどうか

心配だ

小夜曲

月光を編んで日の出を待ち伏せる

やさしさの種

家庭菜園をつくるときは

種を蒔くとき気をつけないと

野菜の種はどれも似ている


母親は

眠っている子供の瞼に

ある種をふりかける


意地悪の種も

嫉妬の種も 軽蔑の種も

その種によく似ている

だから 少し不安


できることは何でも言って

何でもするよ

見返りはいらないよ

ものをくれる人は他にもいるけど

命をくれたのは

あなただけだから


こう言われて

母親ははじめて確信する

やはりあの種は

やさしさの種だったのだと

こんな日にかぎって

午後七時の雲が

うっすらとした紫色の

羊の群れになって

空の端から端まで

どこまでも

連なっている

そばにいけば間違いなく

ラヴェンダーの香りがするのに

もったいない

こんな日にかぎって

翼はまだ

乾燥機の中

いちばん位の高い通貨

無量大数よりも多い

全世界の国家予算を足したよりも

高い位の

通過が 二種類ある


一つは 愛

一つは 真実


けれども

その通貨でしか買えないものは

どんな貧しい人でも 一つ

心の中に

もってるんだよ


どこか遠くで話している声

あれは何?
あれは地球
壮大な宇宙叙事詩の最後に
神様が打った
ピリオドだよ

トワイライト・ゾーン

眠りの中で目覚めて
風の匂いを嗅いだ
子供の頃にあこがれて
手にはいらなかった
何かの香り


窓の外はうっすらと
薄紫色の夜明け前

遠い昔に一度だけ聴いて
題名もわからずじまいだった
美しいメロディが
どこかから低く流れ続けていた


海辺の石造りの家を出て
裸足で海岸の砂を踏んで歩いた
金色の太陽が
触手だけを雲に這わせて
ゆっくりと中空への
移動を始める
もうすぐこの世界が一面
金色に染まる夜明けがくる


危険だ 家に入れ
どこかから声がする


でも 何も起こらない
怪物も現れなければ
突然波が襲いかかってきもしない


危険だ 家に入るか
でなければ
できるだけ遠くへ逃げろ


と誰かが叫ぶ

大丈夫
何が起こっても
私はこれが夢だと知ってる
目が覚めれば
消える世界
危険などない


鋭い痛みで目が覚めた
銃の台尻が目の前にあった
軍人が怒鳴る
お前は外出禁止令が出ているのに
家から出ただろう


だから 危険といったのに
軍人の隣で恋人のサトシが嘆く
見たこともない 粗末な小屋の中
テレビとゲームと携帯とビールと
パソコンとオーディオの日常は消えていた


きびすを返して駆け出した瞬間
海辺の家の戸はばたんと音をたてて閉じた