流れ星
星がもし
高く高く
天まで育った
植物の 花ならば
星畑に
迷い込んだら
じっと
動かずにいましょう
その
見えない茎を
揺らさずにいましょう
誰かが
願いごとを
胸に秘めて
夜空を
見上げるまで
空の上を旅したら
空の上を旅したら
窓から雲を見下ろしてごらん
何かがきらきら光っていたら
それは 地上に届かずに
雲にひっかかった流れ星
その全部に願いごとをしたら
君はきっとなれる
世界一の欲張りに
空の上を旅したら
窓の外を見ながら
考えてごらん
空全体を空輸する方法を
きっと 頭が痛くなるから
美術館では一人になってはいけない
古いフレスコ画の中で
描かれている人物たちが
体をこちら向きにして
真正面を指さしたり
斜め上を指さしたり
斜め下を指さしたり
していたら 気をつけろ
絵の表面の
ヒビをつたって
あみだくじをしてるんだ
そのうち
アタリをひいた誰かが
自由の身になって
君の後ろに
やさしさの種
家庭菜園をつくるときは
種を蒔くとき気をつけないと
野菜の種はどれも似ている
母親は
眠っている子供の瞼に
ある種をふりかける
意地悪の種も
嫉妬の種も 軽蔑の種も
その種によく似ている
だから 少し不安
できることは何でも言って
何でもするよ
見返りはいらないよ
ものをくれる人は他にもいるけど
命をくれたのは
あなただけだから
こう言われて
母親ははじめて確信する
やはりあの種は
やさしさの種だったのだと
こんな日にかぎって
午後七時の雲が
うっすらとした紫色の
羊の群れになって
空の端から端まで
どこまでも
連なっている
そばにいけば間違いなく
ラヴェンダーの香りがするのに
もったいない
こんな日にかぎって
翼はまだ
乾燥機の中
いちばん位の高い通貨
無量大数よりも多い
全世界の国家予算を足したよりも
高い位の
通過が 二種類ある
一つは 愛
一つは 真実
けれども
その通貨でしか買えないものは
どんな貧しい人でも 一つ
心の中に
もってるんだよ
トワイライト・ゾーン
眠りの中で目覚めて
風の匂いを嗅いだ
子供の頃にあこがれて
手にはいらなかった
何かの香り
窓の外はうっすらと
薄紫色の夜明け前
遠い昔に一度だけ聴いて
題名もわからずじまいだった
美しいメロディが
どこかから低く流れ続けていた
海辺の石造りの家を出て
裸足で海岸の砂を踏んで歩いた
金色の太陽が
触手だけを雲に這わせて
ゆっくりと中空への
移動を始める
もうすぐこの世界が一面
金色に染まる夜明けがくる
危険だ 家に入れ
どこかから声がする
でも 何も起こらない
怪物も現れなければ
突然波が襲いかかってきもしない
危険だ 家に入るか
でなければ
できるだけ遠くへ逃げろ
と誰かが叫ぶ
大丈夫
何が起こっても
私はこれが夢だと知ってる
目が覚めれば
消える世界
危険などない
鋭い痛みで目が覚めた
銃の台尻が目の前にあった
軍人が怒鳴る
お前は外出禁止令が出ているのに
家から出ただろう
だから 危険といったのに
軍人の隣で恋人のサトシが嘆く
見たこともない 粗末な小屋の中
テレビとゲームと携帯とビールと
パソコンとオーディオの日常は消えていた
きびすを返して駆け出した瞬間
海辺の家の戸はばたんと音をたてて閉じた