水面からめくりとった水びたしの月 -12ページ目

無題

卯月宵 泣いても泣いても死ねませぬ

ひこうき雲

片目を閉じて

ひこうき雲を

人差し指と親指の

間にはさんで

せばめて

ねじって

結び目つくって

角度を上向きに変えたら

もうここにいない

飛行機の 機首が

月につきささる

音が聞こえた

 

 

 

人生の風景

大音量のOZANNAが

鍵を開けてから

耳の中で海が

増幅した

何者にも左右されない慣性で

駆け抜ける夢の爪に

とらわれ損ね

目覚めるといつも11:59

短針と長針が

新しい獲物に

咬みつく時刻

 

いのちのない煤色の雲が

窓に貼りつく

酸素は死因

不可欠による死因

あまりに遅い凍えにじれて

祈りにつかれて

どこかで幻虫の鳴き声が

ころころ響く

文字盤を見つめ

秒針にリズムを合わせて

顔をゆらす

 

午前に比べ午後を長く感じた日は

決まって影は長針の左に癒着している

消えないよう赤い月をしっかり見据えて

月の風を見る 月の上の灰色の予知を読む

温度のない月

 

ときが止まる

 

止まる

 

翌日の自分へ

脱皮終了 

野仏

国が戦を好む神を選び

仏を虚として捨てたとき

野仏の 顔は削がれた

のっぺらぼう 反転し 昔日を見る

 

時を喰いすぎた雲が

ぼうわりと西へ流れる

西に浄土はあるにはあるが

山に溺れた太陽は凍えている

神の影が大陸の野づらを舐める

 

祖父たちの手を染めた血が

地の底まで沁みこむ大陸

祖父たちが凍土に眠り

故郷を夢に見る大陸

 

あの頃 神と呼ばれたのは

誰の手も届かない高所で

嘘を撒き散らす

故障した機械

 

月の瞬き いや雷だ

仏に顔を 一瞬与えてまた奪う

苔むし風に削られた

仏を 野生植物が覆う

蔦は螺旋を描いて昇る

天空へ 神の居場所へ

 

 

 

そんな日

ご職業は何ですか?

 

 

今日は天気がいいので

 

羊飼いです

心よ

ふたを開けて

解き放つたびに

傷ついて

泣いて帰ってくる

 

心よ

お前の命日だけが

増えるね

Who am I?

五十六億七千万年も

暇ぶっこいて

約束どうり

人類を救いに来てやったのに

バクテリアしかいないなんて

つまんない

帰る

狂歌

犬笛が 聞こえるんだという友を
励ましつつも 少しうらやむ


内部より 手引きされたる盗掘か
石棺まわりにミイラの足跡


カサンドラ 見るもの聞くこと何かも
予知夢で知って もう飽きている


太陽は 焼身自殺という罪の
証拠を焼いて もみ消している


太陽の後ろにさらなる恒星が
できて地球に 太陽の影







時間の化石

ひとあまねく負う十字架と思えくる

 地球儀めぐる 緯線経線


  
   漆黒の夜を創るは地を覆い

    逆さに降りてくるみずがめ座



    降りそそぎ枝葉にじゃれつく日の光

     もがきのたうち 振り落とす樹々


    
     地核より射す陽光のすけるごと

    木漏れ日の下 幻燈の道



    かつて見し脳髄が貝殻になる夢

   今は見ず もはや貝殻なれば



 悠久の時間の流れはてたのち

さらなるのちに 時間の化石



檸檬

フツーに手首を切る
フツーの女の子
彼女は二年前
フツーに校舎の屋上から
飛び降りた

包帯巻いてたの
吉田戦車の漫画のキャラみたく

悲しい記憶の中を
泳いでも泳いでも
岸にたどり着かない
ことってあるよね

楽しい記憶の中に
ずっと住んでいたくても
強制的に立ち退き
させられることって
あるよね

本屋で檸檬が
爆発したって
あんたはその時
どこにいた

フツーに手首を切る
フツーの女の子
もう痛みは
感じないの
気がついたら
切ってるの
冬服の時は安心
袖に隠れるから

思い出は
悲しみの地雷原
泣きながらどかどか
走り抜けると
かえってさっぱりしたり
するんだよね

フツーに手首を切る
フツーの女の子
切っても切っても
生えてくるの
カニのハサミみたいに
ロケットパンチになって
飛んでいくの
地球人には
わからないの

お願いだから
誰も質問しないで

本屋で檸檬が
爆発したって

画数の多い漢字は
密閉状態にすると
爆発の威力が増す
せめてレモンか
れもんならねえ